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ノンマルト通信Express

フリーランスで自由自治

セガール映画に横浜日劇の面影を見た

映画

生協コープで買ってきた白ワインに徳用サイズのポテトチップスをおつまみにして、Amazonプライムで映画鑑賞をした。

ウォッチリストに候補作をいくつも入れてあるが、息抜きの娯楽には単純なアクション物が向いている。007シリーズも網羅されているが、大作振った制作陣の気負いがちらつく。

疲れた時は、もっと気取りのないB級映画の方が脳に優しい。ここは、スティーヴン・セガールに登場願おう。2007年に公開された『沈黙の激突』が今晩のメインディッシュである。

タイトルにはお馴染みの沈黙が付けられているが、多分原題とは無関係だろう。配給会社のこの扱いからして、B級映画の面目を保っている。映画祭や評論家に気兼ねすることなく、観客の求める嗜好に真っ直ぐ応えようとする姿勢を買いたい。

ストーリーの細かい所は気にしなくてもいい。必ず最後はこのオッサンが勝つのだから、途中でトイレに行きたくなっても安心である。脇を固める俳優陣も役作りに意気込みを見せるが、あっけなく倒されるので名前まで覚えなくていい。

出だしは刑事映画と思って観ていたが、どうやらセガールは軍人の設定なのだと中盤になってから気付いた。

予算の為か、派手なドンパチは少なかった。ホラー気味の演出にカンフーをちょっと混ぜたアクションで、観客の機嫌を窺おうとする辺りがいじらしい。

ラストの戦闘シーンになり、唐突に日系人らしいノブに見せ場が与えられるが、これもかつて住んだ日本へのサービス精神だろうか。

お菓子とドリンクを傍らに、日常の煩わしさから一時退避出来ればそれで良いのだ。映画の本分は娯楽である。生活の息抜きの為にあるのだ。

お金を払ってまで、思想やメッセージを刷り込まれたくない。何も考えたくない時には、B級アクション映画は精神安定剤になり得ると思う。

現在では自宅で映画を鑑賞する機会が増えたが、二十代の頃は映画館によく足を運んだ。会社の定期券で通えた池袋文芸座の二階席は、僕のお気に入りのシートだった。セガールやヴァンダムの映画によく出くわしたのは、黄金町にあった横浜日劇だろうか。

あの頃は、二本立ての映画館が繁華街の片隅でまだ営業を続けていた。どこも建物が古く独特の臭気が館内を漂っていたが、1000円前後の入場料金で半日映画に浸っていられる解放感が嬉しかった。

まだ東横線の終点が桜木町駅だった頃で、渋谷から250円前後の運賃で行けたと思う。JRや京急に乗るより割安だったので、横浜で映画を観る時は東横線をよく利用した。

桜木町駅から横浜日劇まで約1.5㎞、大岡川を右に左に眺めながら、気儘に街を徘徊するのも楽しかった。

途中、日ノ出町駅近くにかもめ座という映画館があり、ここも娯楽アクション系の二本立て番組を上映していた。カート・ラッセルが無口な宇宙戦士を演じた映画を観た覚えがある。

二階席へ通じる階段の手摺りが真鍮で綺麗に磨かれていたが、ロープが張られて階上へは進めなかった。入場者の密会防止の為らしい。

二本立て映画館の観客は圧倒的に男性、特に労務者風の人達が多く、女子供は滅多にいない。ある意味、二本立て映画館はくたびれた男達の憩いの場だったのかもしれない。

横浜日劇の近くには角打ちの酒屋があり、サントリーローヤルがグラス一杯200円台で飲めた。京急のガード下には、ピンク色のネオンが妖しい光を放っていた。「飲む・打つ・買う」が身近な風景だった。

僕にとって横浜の印象は、お洒落な海沿いの景色よりも、猥雑な川筋の街並みが目に浮かぶ。

サラリーマンをやめて独立してからも映画館通いは続けていたが、2000年以降、街から急速に映画館が消えていった。同時に、地方都市の商店街からも活気が薄れていった。

大型ショッピングモールとセットになったシネコンの進出拡大は、日本の街並みから確実に色気を奪ってしまった。

「スーパーの上で映画なんて観たくないよ」と思っているうちに、昔から続く映画館がどんどん廃業していき、自分の居場所が削られていくような憤りに苦しんだ。

街が小奇麗にリニューアルされていく度に、僕は懐かしい街角への憧憬を諦めていき、段々と行動範囲を狭めていった。マスコミや大企業が先導する流行には付いていきたくなかった。

人との交流も疎かになり、ついに僕は自宅を生活の拠点とする道を選んだのだ。まだまだ生活安定の途上ではあるが、小さく生きるのも悪くない。

映画館で観るスクリーンの迫力や、感動する場面での場内の一体感は充分承知している。それでも今は、自宅でいつでも好きな映画が観れるという利便性に軍配を上げたい。

もし、また方々の街を彷徨い歩く気力が湧いてきたのなら、どこかで営業を続けているかもしれない小さな古い映画館に辿り着きたい。そして、その映画館の銀幕でセガールやヴァンダムに再会することが出来たなら、僕はまた街へ帰っていけるだろう。

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